医者をやっていたら、一度は患者の言うことに憤慨してどなってしまったり、不機嫌になったりした経験があるはずである。そういうとき、どうにも腹立たしくなったら、なにか力を抜く方法を覚えておいた方がいい。ふーーっ、なにいってんだろーっと。これも病気、病気がなせる技なのだと思って、私は自分の仕事をまっとうするだけ、と言い聞かせる、そうしないとよからぬ力が入り、患者をむりやり説得に入ったりすることになる。
医者というのはなんとも考えているようで何も考えておらず、科学者然としていながら、実はただの経験科学だったりする。こうしていたからこうする、どうにも私の力ではこう曲げることは出来ないのです、といって逃げることもある。頭を使わなくてもできるかもしれないのが医者の一部の仕事である。自然に任せて、神しか分からないのですとのうのうといってみたり、なんとなく何かを切り売りして整形を立てている行商人ぐらいの間隔がある。
- 作者: 姜尚中
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/05/16
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